国民新党は郵政見直しに当たり、日本郵政グループ内で働く非正規社員の正社員化を提唱しています。これは市場原理主義の下で勤労者が非人間的な扱いを受ける流れを改め、互いに助け合いながら生きる日本社会を取り戻す第一歩と考えています。
郵政事業の民営化は、ゆうちょ銀行の貯金残高の減少や郵便物の誤配・遅配など、さまざまな弊害を生みました。これらは業務に携わる職員を非人間的に扱い始めたことと関係があります。郵便配達に来た局員に貯金や保険の業務を相談できず、小さな村で顔見知りの関係にあっても、本人確認のため身分証明書の提出を求められる始末です。
職員の間でも、人間味のない環境がつくられました。1つの局が3つの間仕切りで仕切られ、互いに行き来できません。事業を行う4つの会社を分けるためです。これは過疎地にある小さな局も同じです。保安上の名目で、防犯カメラが各郵便局に設置されました。これは、特定郵便局長が誰と会っているかを監視するために使われています。人を信用しないこうした対応は、職員の士気の低下を招いています。
非人間的化の最たるものは、職員の雇用形態です。最近、赤い郵便バイクが疾走するのをよく見るのではないでしょうか。停車や発進もせわしく、周りも落ち着いていられません。こうした光景は、低賃金でノルマを課せられるようになったことが背景にあります。
時給800円で郵便物を区分し、年賀状の販売をノルマとして割り当て配分されたり。その枚数も年々増える一方で、さばききれない大量のはがきが金券ショップに持ち込まれたとの報告もあります。誤配や遅配は郵便物の集配拠点の統廃合とともに、雇用形態の変更が起因しています。
年金の振込がされなかったり、内容証明郵便の認証手続きのミス、かんぽ生命の払込証明の送付遅延などのトラブルも起きています。これらは民営化後に生まれたものです。
2009年2~3月に実施され、全国郵便局長の9割1万9742人が回答したアンケート調査では、65.2%が民営化後のサービスに苦情や不満が寄せられていると答えています。
持ち株会社の日本郵政、郵便局会社、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険のグループ5社の従業員は合わせて43万人強。2007年10月の民営化後、2年間に正社員は6000人減らされる一方、非正規社員は1万5000人増えました。今や従業員の半分近い21万人強が非正規社員で、わが国最大の非正規雇用企業になっています。
日本郵政グループ内の雇用形態は社員、契約社員、パートタイマー、アルバイトに大別されます。非正規社員は正社員と同じ内容の仕事をしても給料は約3分の1で、福利厚生も極端に低い条件にあります。グループ会社が常用雇用する非正規社員約17万2000人余りのうち、64%が生活保護基準に満たない年収200万円以下の「ワーキングプア」状態にあり、生活を維持するためダブルワークやトリプルワークを余儀なくされています。
コスト削減のため、勤務日数や勤務時間の削減や雇い止めによる雇用調整も行われています。現在わが国は労働者の3分の1程度が非正規雇用ですが、日本郵政グループでのそれは約半分。世界最大の金融会社で、わが国を代表する企業が「格差と貧困」の拡大を率先している現実があります。
ワーキングプア層の拡大は、国家にとっても危険な要素です。消費の減退は生産能力を低下させ、国力の衰退を招きます。意欲の低下は社会文化の荒廃ももたらします。非正規雇用労働者の比率は若年層で高く、将来に希望を持てない国民が支配的になれば、他人のことを思いやる余裕がなくなり、殺伐とした社会になるでしょう。
亀井静香代表(郵政改革・金融担当大臣)は3月、日本郵政グループで働く非正規社員のうち、希望者を正社員にしたいと発表しました。構造改革で損なわれた和の精神を、改革の最大の餌食(えじき)になった郵政グループから回復しようとの考えです。
グループ内で正社員になることを希望する非正規社員は、8万人から10万人程度と推測されます。仮に非正規社員の約半分、10万人を正社員にした場合、人件費は年間約3000億円膨らむと見込まれます。しかし、亀井代表はこれを企業にとっての「原価」だと主張します。
小泉構造改革では、市場原理主義の考えに基づき、強者の論理を優先しました。2004年の労働者派遣法改正により製造業などでも低賃金で不安定な雇用形態への変更が進み、ワーキングプアが激増しました。こうした政策には、働く人間を道具扱いする思想がのぞきます。
構造改革が進む中で、企業は過当競争を強いられました。企業存続のため、あらゆるコスト削減が求められ、機械や材料、交通費、通信費などを安く賄おうとします。従業員の給与はほかの費用と比べ硬直性が低いため、これを圧縮する傾向が産業界全般に広がりました。しかし、コスト削減のしわ寄せを人件費に求めるのは、本末転倒ではないでしょうか。人間が社会の主人公であるべきだからです。
平成20年度の日本郵政グループの純利益は4227億円。正社員化のための費用3000億円を捻出するのは簡単でないかもしれません。亀井代表は言います。
「それで赤字になるのだったら、経営が悪いのです。人間を人間扱いして黒字が出せないなら、それはインチキです。人間を非人間的な扱いをして利益を得るなんてことは、認めるわけにいきません」
つまり、正社員化のコストは社会の活力を維持するコストと言えます。企業の論理からすれば、非正社員化による費用削減は、利益を大きくするという意味で正当かもしれません。しかし、社会の論理では間違っています。不安定な雇用形態にすることで人件費を切りつめれば、可処分所得すなわち従業員の個人消費が減り、国内経済をデフレ状況に導きます。
ワーキングプア人口の増大は社会の不安定化をもたらします。国民は一定周期で職探しを強いられ、若者は結婚もままなりません。略奪や横領、他人へのねたみからの傷害事件も増え、治安も悪化するでしょう。非正規雇用が一般化すれば格差が固定化され、階級が相続されるようになります。生まれた家庭環境で将来の進路が決まり、勉学や技能習得による成功が描けなくなります。これは、社会のダイナミズム(動力)が失われることを意味します。
不況下の緊縮財政で全体が貧しくなる中、一方で会社法を作って巨大企業による企業買収を容易にし、株主配当や経営者報酬を増やしました。わが国では構造改革以降、ワーキングプアが増えましたが、実は多くの大企業の内部留保はこの10年間で約426兆円に倍増しています。非正規雇用を正規化するための費用は、この3.5%と試算されています。
日本郵政グループの場合、民営化に伴う不透明な取り引きがありました。総務省の日本郵政ガバナンス問題調査専門委員会(郷原信郎委員長)が4月に取りまとめた報告書には、赤字になった日本通運との宅配便事業の統合計画や「かんぽの宿」の一括譲渡、三井住友カードへの業務委託、「ザ・アール」との研修事業の契約など、不自然な経営実態が記されています。こうした不透明な部分は、従業員に還元できる余地があります。
また、郵政改革法案に盛り込まれた郵貯預け入れ限度額引き上げや保険限度額の引き上げは、ユニバーサルサービスの維持とともに、健全な雇用を確保するための好材料としても活用できるかもしれません。
国民新党は従業員の非人間的な扱いをやめさせる努力とともに、不当な利益を挙げる動きを監視すべきだと考えます。亀井代表は1億円以上の報酬を受け取る上場企業の役員について、開示を求めました。平成22年3月期の決算から適用されています。また、物品調達も民営化で2年前から中央調達に一元化されましたが、これを地方調達に切り替えることを提言しています。いずれも貧富、中央と地方の格差を解消するものです。
こうした取り組みは、構造改革によってズタズタにされたわが国の良き秩序を立て直す手始めと考えています。日本人らしい助け合いの社会の回復に取り組んでいます。












